2016年9月6日火曜日

理学療法部門臨床実習ガイドラインの紹介

私の勤務先では、臨床実習ガイドラインを作成し、これに基づいて学生の指導に当たっている。少し前のことではあるが、第二版も病院のウェブページに公開した。なかなかの出来映えではないかと思い、その序文とともに紹介したい。

臨床実習ガイドライン(改訂 第2版).序文
以下引用

理学療法の臨床実習教育の指診については、平成 22 年に日本理学療法士協会が「理学療法 教育ガイドライン(第 1 版)」を発行しており、記述されている。しかしながら、臨床実習における具 体的な指導内容や方法の大部分は、各施設や各実習指導者に委ねられている現状がある。特に、 標準的理学療法実習教育体系が定まっていない臨床実習施設においては、各施設の歴史や個 人(実習指導者)の経験のような主観的価値観を基準とした学生指導・評価がなされる可能性があり、行き過ぎた指導や消極的指導が行われた場合、臨床実習生が臨床実習を続けられなくなる事態が懸念される。
このような臨床現場の実習指導において危惧される諸問題を回避するために、当院の理学療法部門では、クリニカル・クラークシップによる臨床実習指導の導入に向けて平成 23 年度に「理学療法部門臨床実習ガイドライン(第 1 版)」を策定し、平成 24 年度から運用を開始した。クリニカル・クラークシップは、臨床実習生に一部の診療経験をさせる臨床実習の形態であり、指導者が具体的な指示を与え、できることから診療に参加させていく。それにより臨床実習生は多くの患者に対して、さまざまな場面で診療経験を得ることができる。理学療法士養成学校においてクリニカル・クラークシップを導入した臨床実習を推奨するところが増えてきており、先述の理学療法教育ガイドライン(第 1 版)においても、クリニカル・クラークシップを実習形態の基本とすることが提言されている。
この度の改訂では、当院での臨床実習教育における到達目標を「ある程度の助言・指導のもとに、基本的理学療法を遂行できる」として新たに設け、実習指導方法や臨床実習生評価のみならず、主たる実習指導者の指導負担および臨床実習生の負担を軽減する工夫についても議論を重ねた。
実習指導方法や臨床実習生評価については、理学療法部門臨床実習ガイドライン(第 1 版)において、”臨床実習における標準的理学療法”を前提とした実習経験表(実習評価表)を作成し運用してきたが、今回の改訂では、実習評価において実習指導者によって著しく評価が異なることがないよう、評価の段階付けについて明確に基準を設ける配慮をした。また、実習指導者の質を担保することについて、新たに基準を設けた。
主たる実習指導者の指導負担の軽減については、主たる実習担当者以外の役割について明確にすることで負担が特定の者に偏らないように見直した。臨床実習生の負担の軽減については、提出する書類の整理を行うとともに、記載内容についても配慮した。
以上の改訂により、臨床実習生は、必要な知識・思考法・技能・態度を段階的に学ぶことができ、実習指導者は臨床実習生から発せられる新たな視点に基づく質問等により、自己学習が促される機会になることを期待したい。

2016年8月14日日曜日

一人で暮らしているということが、脳卒中患者のアウトカムと脳卒中ケアへの与える影響

独居の脳卒中患者では、発症時に病院への到着が遅れ、そのことによって血栓溶解療法を受けることが少なく、自宅復帰が少なかったとの内容です。

Stroke. 2014 Oct;45(10):3083-5.

Impact of living alone on the care and outcomes of patients with acute stroke.

Reeves MJ, Prager M, Fang J, Stamplecoski M, Kapral MK.


Abstract

BACKGROUND AND PURPOSE:

脳卒中発症時に一人暮らしの患者のアウトカムは、急性期治療へのアクセスが減少し直接的に影響を受けたかもしれないし、社会的な孤立によって間接的にも影響を受けたかもしれない。我々はRegistry of the Canadian Stroke Networkで独居と、急性期治療、そしてアウトカムの関連を調べた。


METHODS:

2003-2008の間に11 Ontario hospitalsに入院した自宅に住んでいた急性期脳卒中患者10048 
(87% ischemic, 13% hemorrhagic)
アウトカムは、発症2.5時間以内に到着、自宅退院、30日と1年死亡率、および1年での再入院。


RESULTS:

全体では22.8(n=2288)の患者は、脳卒中の前に自宅で一人暮らししていた。一人暮らしの被験者は、有意に高齢で(mean, 74.6 versus 71.5 years)、女性である可能性がより高く(61.5% versus 41.4%)、夫と死別し(53.7% versus 12.3%),、または独身であった(21.5% versus 3.8%). 一人暮らしの患者は2.5時間以内に到着する可能性が低かった(28.3% versus 40.0%; adjusted odds ratio, 0.54; 95% confidence interval, 0.48-0.60), 血栓溶解療法を受けることができておらず(8.0% versus 14.0%; adjusted odds ratio, 0.52; 95% confidence interval, 0.43-0.63)、自宅に帰ることができていなかった(46.0% versus 54.7%; adjusted odds ratio, 0.65; 95% confidence interval, 0.58-0.73).一人暮らしと死亡または再入院の間に有意な関連はなかった。


CONCLUSIONS:

一人暮らしの患者では病院への到着が遅れ、血栓溶解療法を受けることが少なく、自宅復帰が少なかった。一人暮らしと社会的孤立、脳卒中ケアへのアクセス、そしてアウトカム間の相互関係への深い理解が必要とされている。

2016年6月20日月曜日

脳卒中患者の座りがちな行動のエネルギー消費の特徴

背もたれ有り座り 1.04±.11 MET、背もたれ無し座位で立位で1.31±.25MET車いす駆動で1.91±.42MET歩行で2.52±.55METであったとのこと。



Arch Phys Med Rehabil. 2016 Feb;97(2):232-7. doi: 10.1016/j.apmr.2015.09.006. Epub 2015 Nov 4.
Characterizing Energy Expenditure During Sedentary Behavior After Stroke.
脳卒中後の座りがちな行動のエネルギー消費特徴
Verschuren O, de Haan F, Mead G, Fengler B, Visser-Meily A.

Abstract
OBJECTIVES:
コントロールされた研究室の条件下で、脳卒中患者の座りがち行動に近い動作(臥位、背もたれ有り座位、背もたれ無し座位、立位、車いす駆動、歩行)のエネルギー消費を測定し計測した。そして、それを座りがちな行動と定義した1.5metabolic equivalent task (MET)のエネルギー消費とそれらを比較した。

DESIGN:
Cross-sectional cohort study. 横断コホート研究

SETTING:
Rehabilitation institutions.

PARTICIPANTS:
People with stroke (N=27; mean age, 61.0±11.7y), categorized at Functional Ambulation Categories (FAC) 0 to 5.

INTERVENTIONS:
Not applicable.

MAIN OUTCOME MEASURES:
(間接的な熱量測定法を用いて測定した)エネルギー消費はMETsで表した。すべての参加者で記録は計算され、それぞれの活動(臥位、背もたれ有り座位、背もたれ無し座位、立位、車いす駆動、歩行)で平均化した。全体と、FACで分類化して計算した。

RESULTS:
全体では背もたれ有り座位で 1.04±.11 背もたれ無し座位で, 立位で1.31±.25, 車いす駆動で1.91±.42, 歩行で2.52±.55FACで分類化した脳卒中患者のすべての活動のうち車いす駆動または歩行が1.5METsを超えていた。

CONCLUSIONS:
典型的な座りがち行動(例えば座位)のエネルギー消費は1.0MET付近にある。座位や立位の間のエネルギー消費はFACで分類した患者FAC 0 (の立位で1.6 MET)を除くすべてで1.5 MET 以下であった。車いす駆動と歩行は軽い活動としてぶんるいすることができる (≥1.5 MET).

KEYWORDS:

Health; Rehabilitation; Sedentary lifestyle; Stroke

2016年4月5日火曜日

慢性脳卒中患者は健常者と比較してどの程度下肢の筋力が残存しているのか

慢性脳卒中患者では麻痺側下肢で健常者の50%、非麻痺側下肢で60%の筋力になっているとの内容です(過去文献で、急性期では麻痺側下肢で健常者の50%、非麻痺側下肢で80%の筋力)。運動麻痺の影響と生活範囲の狭小化が慢性期では筋力の低下につながっている。またとくに股関節伸筋、足背屈、股内転などに低下が著しかったとのことです。外来慢性脳卒中者は、年齢をマッチさせた対照群と比較して、両方の下肢の主要な筋群のほとんどで筋力のかなりの低下があるとの内容の論文内容です。


タイトル
慢性脳卒中患者は健常者と比較してどの程度下肢の筋力があるのか。

Arch Phys Med Rehabil. 2016 Apr;97(4):522-7. doi: 10.1016/j.apmr.2015.10.106. Epub 2015 Nov 23.
Lower Limb Strength Is Significantly Impaired in All Muscle Groups in Ambulatory People With Chronic Stroke: A Cross-Sectional Study.
Dorsch S, Ada L, Canning CG

Abstract
OBJECTIVE:
年齢をマッチさせた対照群と比較するために脳卒中者で、麻痺側と非麻痺側の下肢の主要な筋群の強さを測定した。

DESIGN:
Cross-sectional study. 横断研究

SETTING:
University laboratory.

PARTICIPANTS:
1-6年経過した外来脳卒中者(n=60; mean age, 69±11y)、年齢をマッチした健常者(n=35; mean age, 65±9y) (N=95)

INTERVENTIONS:
Not applicable.

MAIN OUTCOME MEASURES:
両方の下肢の12の筋肉群(股屈筋と伸筋、股内転と外転、股内旋と外外旋、膝屈筋と伸筋、足背屈と足底屈、足内反と外反)の最大等尺性筋力はハンドヘルドダイナモメーターを用いて測定。すべての測定は、1評価者によって標準化された位置で実施した。

RESULTS:
脳卒中者の麻痺側下肢は、すべての筋肉群の対照群(P<0.01)よりも有意に弱かった。(年齢、性別、体重について調整済みの)筋力は、対照群の48(range, 34%-62%)だった。 最も筋力が低下していた筋群は股関節伸筋(対照群の34%)、足背屈筋(35%)、股関節内転(38%)であった。また足内反(62%)、足底屈筋(57%)、および股屈筋(55%)も重度に低下していた。脳卒中者の非麻痺側下肢は、足首の内反(P=0.25)を除くすべての肉群で制御群のそれより有意に弱かった(P<0.05)。(年齢、性別、体重について調整)筋力は対照群のそれの66(range, 44%-91%)。最も深刻な影響を受けた筋群は、股関節伸筋(対照の44%)、足背屈筋(52%)、膝屈筋(54%)。

CONCLUSIONS:

外来慢性脳卒中者は、年齢をマッチさせた対照群と比較して、両方の下肢の主要な筋群のほとんどで筋力のかなりの低下がある

2016年2月1日月曜日

脳卒中の重症度と脳卒中後の機能に発病前の身体活動が与える影響

発病前の歩行習慣と初発脳卒中後の機能の状態との間に有意な関連があるという内容です。毎日30分以上歩くことで、脳卒中後も機能が高く維持されるそうです。


EFFECTS OF PREMORBID PHYSICAL ACTIVITY ON STROKE SEVERITY AND POST-STROKE FUNCTIONING
脳卒中の重症度と脳卒中後の機能に発病前の身体活動が与える影響
J Rehabil Med 2015; 47: 612–617

OBJECTIVE:
脳卒中の重症度と機能に与える、発病前の身体活動の影響を調べるために、初発脳卒中の急性期、および1年間のフォローアップ時に、ADL、歩行とバランスにより測定した。

METHODS:
初発脳卒中または一過性脳虚血発作を持つ183人の患者の急性期と1年間のフォローアップが研究に含まれた。性別、年齢、教育、リビングアレンジメント、BMI、喫煙、高血圧、脳卒中の分類と歩行補助具の使用を記録した。発病前の身体活動は、歩く習慣をアンケートで記録した。脳卒中後のアウトカムは、National Institutes of Health Stroke Scale、Modified Ranking Scale、Barthel ADL Index、最大歩行速度とBerg Balance Scaleとした。※リビング・アレンジメント(親子をはじめと祖父母と孫など世代間の同別居や近居などの居住形態)

RESULTS:
参加者の脳卒中前の「規則的な歩行の期間」と、脳卒中の急性期にあるすべてのアウトカムの機能の間に有意な相関(P <0.05)があった。 いつも30分以上歩いていた参加者が有意に良好な結果を達成した。歩行及びバランスの尺度は、一年間のフォローアップ時にも同様の関連性(p <0.05)を示した。

CONCLUSION:
発病前の歩行習慣と初発脳卒中後の機能の状態との間に有意な関連性がある。30分以上歩くような毎週の低強度の身体活動は、脳卒中後の機能に持続的な影響を有する。

url
http://www.medicaljournals.se/jrm/content/?doi=10.2340/16501977-1972